大工や職人を目指す人

以前、「大工が消える?効率化の光と影」という内容のブログを書きました。

今回は、僕が思う「職人」について、少し書きたいと思います。

理想論とか、そいう言った風に聞こえるかもしれません。

僕は、これから語る内容に、同意を求めたり、どうしても賛同して欲しいという事は思っていません。

なので、現在ベテランの大工さんや、お金を稼ぐ事を第一の目的と考えている大工さんは、もの凄く批判的になると思います。

読まれる方は、それを承知で読んでください。

 

現在の高校生、大学生で、「職人」になろうとする人たちは、どれくらいいるだろうか?

そもそも、「建築」の道に進む人は、どれくらいなのかな。

 

僕が高校受験の時、今からですと、1990年台ですね。

僕が進もうとしていた、宇都宮工業高校の建築科は、県内の進学希望倍率がダントツトップでした。

現在(2018年10月)、進学希望者数のでの倍率をみると・・・
「建築デザイン」が3.2倍で同じ感じのようですね。

 

でも、僕の時代は建築科は40人1クラスで、定員80名・・・

つまり、2クラスあったのです。

現在は40人なので1クラスのようですね。

なので、倍率が高くなっているのかと思います。

80人で考えれば1.6倍です。

 

言ってみれば、結構狭き門ですよね。

 

ですが・・・

そんな狭き門を通過して、入学出来て、実際に卒業後、建築関係の道に進む人は、ほとんどいないというか半分くらい?な感じがしています。

設計事務所は、東京で就職してもお金が安いので、辞めちゃった友人もいますし、大手の現場監督も辞めてしまった人もいます。

全然違う所に就職している人もいます。

それは、大学も同じですね。

 

そんな中、そういった過程を踏んで、「職人」になろうという人は、どれくらいかな?って話。

大学まで進学して、大工や基礎の職人になろうとする人は「勿体ない」とか思う人もいるかも知れません。

 

でも、それは違うと思っています。

 

大工さんなどを含めて、「職人」としてのプライドや想いの「質」が違ってくると思います。

僕は、現在の大工には職人の「種類別」に分けられると思っています。

 

職人に限らず、自分や家族を養っていくには、「稼ぐ」事が大前提です。

食べて行かなくてはなりません。

 

そういった状況で、タイプ別の職人さんに分類されるという事です。

ここでは、家づくりに関しての内容で分けて見ます。

稼いでなんぼ、仕事が楽で報酬が高い外注の仕事を好んでするタイプ
誰もが、仕事が楽で、報酬が高い仕事をやりたいに決まっています。
その方が、誰だっていいです。
正直、この手のタイプの職人というか、そいう言った人を職人と呼べるのかは、微妙な所です。
単にお金を稼ぎたいなら、別に「職人」になる必要がありません。
ユーチューバーにでもなるのもいいかも知れませんが、それが人気なのも、「楽」にお金が稼げると思っているからなのですかね?
楽しいように思うのですかね?
食べていくために、安い仕事だろうが請負うタイプ
これは、職人に限らず、工務店とかにも当てはまりますが、要は「安さ勝負の家づくり」を積極的に展開するタイプです。
この手のタイプは、省エネ法義務化になんてなったら、パソコンがそんなに扱えなくて、省エネ計算とか出来ないから、仕事が出来なくなるという事を真っ先に考えるタイプでもあります。
これらの場合、元請けの人達が、大工さんとか職人を、「駒」としか見ていない事が多いと思います。
言ってみれば、ハウスメーカーの下請けの大工さんとかが、必然的に当てはまるのではないでしょうかね。
100万円とか200万円減額とか、依頼主は喜んでいるかもしれないけど、その家を建ててくれる職人さんたちは泣いているという事を知った方がいいと思います。
多少安くても、住まい手を考えて、仕事が出来るタイプ
多少安くてもというのは、「適正価格」の範囲であって、赤字になるような報酬額の事は指していません。
僕は、このタイプの職人を最も尊敬しますし、一緒に仕事をしたいと思います。
ラファエル設計が行うQ1.0住宅は、普通の家よりも、細かい所で作業量が増えます。
それらは、今の家づくりでは、本当はやらなくてもいいと思う人がいるから、「大変になる」と思う人が大半です。
例えば、「漏気」を防止する施工は、今の多くで行われている家づくりでは、殆ど効果がありません。
これは間違いなくそう言えます。
でも、そい言った事を知らず「100年住宅」とか、てきとうなうたい文句の宣伝を鵜呑みにして、契約しちゃうのですよね。
高いお金を出して、家を建てたにも関わらず、漏気が原因で外壁に藻やカビが生えている住宅の例がこちらです。
サーモカメラで見て見ても、ヒートブリッジがバッチリ見えます。
柱や梁が冷やされています。
完全に「漏気」が原因です。
「住まい手を考えて仕事が出来るタイプ」というのは、こういった事を防ぐ為の家づくりがしっかり出来るかどうか?という事です。

 


 

さて、職人さんのタイプ別は、僕なりに考えたものです。

上記の写真の様になってしまうのが、今の日本の家づくりの「基準」です。

家づくりをする職人さんの場合、極論言えば、中卒とか、普通高校卒業だって、そこから学べば、職人になれます。

 

「職人」というのは、「誰にも負けない技術・知識」というのを、依頼者の為に発揮する事が出来る人の事だと思っています。

「職人」というのは、「技」や「腕がよい」なんて言うのを一般ユーザーが求めると思いますが、家づくりに関しては、気密性を確保する事や、断熱材を入れる技術だって、もの凄く重要です。

例えば断熱材なんて、誰だって入れられると思うかも知れませんが、ハウスメーカー含めて、多くで使われている、↓この白いシート付の断熱材。
上部に隙間が出ちゃってます。

 

誰だって入れられる・・・

誰だって「適切に」入れられる?

入れられないからこうなるのですよ。

その他は、「気流止め」という施工が殆ど行われていない。

その為今も昔も、冬は寒い家が沢山建っているのです。

 

下の図が、今も昔も大きく変わらない状況です。
1階、2階の床と柱の接合部の所から、基礎下の冷気が侵入している事も分かると思います。

床断熱が主流なので、1階の床下は「外気」なわけです。
それなのに、「気流止め」が無い為に、間仕切壁とか、105mmの柱(壁厚)なのに、断熱材を90mmとかしか入れないと、その隙間を通って、1階天井裏を寒い空気が流れて、更に2階の小屋裏(屋根裏)に暖気は持って行かれ、小屋裏換気の為の通気と合体したりするのです。

 

こうなると、断熱材は全然効果を発揮しません。
↓こうなります。

 

 

僕は、こういった事が当たり前に行われている事に対して、危機感を持っていますし、こんな家を、「楽だから」「基準で決まっていない」という理由で作る職人にはなって欲しくないと思っています。

 

例えば建売で、このような家づくりが沢山あったとしても、極力、職人として携わらないで欲しいとさえ思っています。

だって、こんな家は、ヒートショックで亡くなる可能性が高い、行ってみれば、殺人的住宅なのですよ。

それをお金の為に造るような職人は、職人ではなく、ただの「作業員」だと思っています。

 

このような家は、DIYが趣味な人がつくるレベルであって、「職人」として、このような家を建てるのは、職人でもないし、これから大工を夢見る若者たちが、自分の腕を振るう価値もない家です。

 

僕は、自分も含めた設計者が「デザイン優先」で家を建てる事は反対派です。

勿論デザインは重要な事です。

 

ダサい家でいくら高断熱をうたっても、多くの人は振り向きもしませんよね(笑)

 

いずれにしても、「家」というのは人が住まう場所。

衣食住をそこで行うものです。

 

不思議なのが、こういった家の現状を、ワイドショーとかが全然取り扱わない。

くだらない、どうでもいい芸能ネタをひたすら取り扱っている。

「つらら」が出来る家は、こうなっている家です。

屋根の雪が、他と立地が同じなのに、より早く解けるのは、断熱・気密欠陥住宅です。

 

今ね・・・

基礎工事なんか特にそうですが、

「仕上がっちゃったら見えなくなっちゃうからね」

という発言をされます。

 

これは、どんなにキレイにコンクリートを金ゴテ仕上げにしても、表からは見られないし、基礎表面はモルタル塗られちゃうし・・・

って現状だから、そう思うのは仕方ないですよね・・・。

でも、ラファエル設計は、基礎断熱の為、床下も内部ですし、点検の為に潜ります。

お目にかかる頻度は少ないですが、住まい手からは、「見られるもの」となります。

 

大工さんが施工した柱や梁は、多くは天井や壁に隠れて見えなくなります。

しかし、雑な施工などは、壁にひび割れが出てきたり、↓のように藻やカビが生えたり・・・

表面上に出てきます。

でもそれは、よっぽど酷くなければ竣工後10年くらい経ってからかもしれません。

 

ですが、住んでからすぐに分かってもらえる事があります。

それは、家の暖かさ。

 

「とても暖かい家」

と言っていただけるのは、大工さんの技術と知識です。

 

そして、やりがいがあるのが「C値競争」だと思います。

C値というのは「隙間」がどれくらいあるか?

という数値です。

この数値が1.0を切ると、「高気密」という部類に初めて入ってきます。

0.5前後なら、大体OKだと思っています。
↓こういった装置で測定します。

 

C値(相当隙間面積)
※気密性能を表します。
家全体の隙間を表します。

数値が小さい方が高性能です。

C値1.0というのは
1㎠/m²
となります。
床面積1m²につき1の隙間があるという事です。

ハガキに例えます。
ハガキというのは10cm×14.8cmです。

面積にすると148㎠になりますね。

家の床面積が148㎡(44.8坪)でC値1.0なら、その家は隙間を合計すると、
ハガキ1枚分の隙間があるという事です。

C値が0.5なら、半分となりますのでハガキ半分の74㎠/㎡の隙間という事になります。

勘違いしてはいけないのが、このC値は『家全体』の合計の隙間であるという事。

窓の気密性能だったり、ドアのカギ穴だったり、そういった所にも影響されるのがC値です。

どちらかというと、グラスウールであれば、気流が起きれば断熱性能は6倍以上低下してしまうので、気流止めが必要なわけです。
気流が起きてしまうような建物の場合、C値がいくら良くても断熱性能はほぼ無いです。
気密を取るのは勿論重要ですが、C値だけで家の性能を判断するのは間違いです。

 

これね・・・

高気密住宅に慣れた大工さんだと、0.1とかの数値をたたき出します。

それが出せないとダメとかそんなんじゃないです。

引き違いの窓にしていたりすれば、不利になってきたりきますので・・・。

 

ちなみに・・・

昨年、築1年のとある大手ハウスメーカーで建てた家の調査の話を聞きますと・・・

C値が3.9

という話にならない設計&施工であり、当然めっちゃ寒い家。

和室や押し入れの隅には、カビが発生という現状。

↓こういった家程、C値は大きくなっていきます。

 

こういうのって・・・

誰の為の家づくり?って思うのです。

これから大工や基礎工事などの職人を目指す方々、現在の職人さん達は、こういった家を造らない技術と知識が本当に必要なのです。

「大工の腕」って、木を刻んだりするだけではないのですよ。

物を切ったり付けたり、設置したりするのが「技術」や「腕」だと思っているなら、夢もやりがいも無くないですか?

 

設計者がいて、大工が自分だったりしたら、その設計を確実なものに出来る技術と知識に報酬を「適正価格」としてもらうべきなのです。

ただ、ここで勘違いしないで欲しいのは、上記の様な家の施工とQ1.0住宅を比べて気密処理などの手間が増えます。
手間というのは、面倒くさいという意味の手間ではなく、「施工費」としての意味です。

「本来はやらなくてもよくて、Q1.0住宅だと手間が増える」

というのは大きな間違いです。

「本来やるべき手間がQ1.0住宅にはある」

という事。

 

大工さんが設計出来ればスペシャルに最強ですが、本当に大切な知識を兼ね備えた大工さんだって、十分スペシャルに最強だと思っています。

『職人』が、上を目指したり、日々勉強するのを止めてしまったら、いつしか自分がお金を稼ぐために仕事をしているだけになってしまわないだろうか?

 

『職人』というのは、やっぱり、その人の技術や知識で、その仕事によって、依頼者や周りの人を幸せに出来る技術を持った人が、「職人」というものだと僕は思っています。

だから、職人の手間とかを大きく削減した家づくりってのは、大反対ですし、安さ勝負の低性能な家づくりをする人たちが、職人を絶滅危惧種へと誘っているのです。

 

一流の料理人は、自分がつくる美味しい料理を食べてもらいたいと思って、自分が経営するお店を出したりするわけですよね?

職人も同じではないのでしょうか?

自分がつくった家で、冬は暖かく、夏は涼しく、電気代もかからない、ほとんど無暖房・・・

地震に強い、100年持たせることが出来る・・・

そういった家を造れる職人を目指して欲しいと思っています。

 

僕は、多くの家を沢山設計したりする事が、身体1つなもので、中々難しいですが・・・

少しでも多くの家族の「命」を守って行ける家づくりを、していきたいと思うし、願うばかりですね。

 

現段階で、高断熱高気密を造れる知識がありながら、それをやらないのは、僕自身にとっては「罪」であり、
どうしても仕事がなくて、そんな設計を住まい手に提案する事は絶対に無いですし、それをした時は僕の建築士としての資格が亡くなった時です。

なので、そのような外注とかもしないです。

今後、大工が減るとか、職人が減るという現状を打開する為には、我々が夢ある仕事とという手本を見せて行かないと、家づくりに本当の魅力は見いだせないと思っています。

2018年12月21日